ヴァネッサ・ワーグナーさん、DJとの不思議空間

こちらは、ピアノを弾く人と、その横でネットサーフィンしてる人......ではありません。

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フランス人ピアニストのヴァネッサ・ワーグナーさんと、メキシコ出身のミニマル・テクノDJのミュルコフさんのコンサートです。

ワーグナーさんが奏でるピアノの音を、その場でミュルコフさんがコンピューターを使って変調させ、余韻を付けたり、増幅させたり、はたまた全く予想のつかない低音を絡めたりしている、の図が上の写真。

絵的には地味(?)なんですが、これがまさかの不思議音空間! 入浴、森林浴、日光浴......とありますが、こちらは言うなれば「音浴」でしょうか。ステージ上、天井近く、そして客席後方のスピーカーからミュルコフさんの放つ音響が聞こえてくるので、まさに音に包まれる感じ。「音って、空気の振動を通じて届けられるんだ!」と身をもって実感。空中の波動が、顔面やら心臓にダイレクトにぶつかってビンビンくるような、驚きの感覚です。

ワーグナーさんがピアノで演奏しているのは、フィリップ・グラスの「メタモルフォーシス」など、音型を反復させて進行していくミニマル・ミュージック。
二人の音楽はとても瞑想的。記憶の彼方をゆさぶるような、胎児となって外界の音に耳を澄ませているような、そんな世界にいざなってくれるのですよ。

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終演後、ミュルコフさんの机に近づいてみると......工作好きの男子の机みたい。

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ピアニストとしてバロックから後期ロマン派まで、クラシックの幅広いレパートリーをもつワーグナーさん。なぜまたこのようなパフォーマンスをミュルコフさんとなさっているのでしょう。終演後のワーグナーさんに直撃してみました。

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「私たちの出会いは2年前。彼の電子音楽は以前から知っていたのですが、とあるホールでのプロジェクトのために、私の方からミュルコフに声をかけたのがきっかけです。
 私はもともと18世紀末のフォルテピアノからモダン・ピアノ、そして電子ピアノにいたるまで、さまざまなピアノを演奏しているのですが、ミュルコフとの共演もそうした取り組みの延長上にあると言っていいでしょうね。私はある意味、何かの『専門家』になりたくないんです、......ほら、たとえばショパンだけを弾くピアニストもいますが、私はそうではなく、好奇心のままに、ピアニストとして様々なカラーを出していきたいと思っているの」

 新しいタイプの音楽であっても、心をオープンにして、クラシック音楽ファンからDJに興味のある若者まで、さまざまな方にこのパフォーマンスを聴いてほしいと話すワーグナーさん。とても知的で素敵な方でした。

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