出演者インタビュー

ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2026に出演するアーティストたちにインタビューを行い、プログラムの聞き所や公演への意気込みを語っていただきました。
それぞれの音楽性、人間性が垣間見える素敵なインタビューで、アーティストの演奏とラ・フォル・ジュルネへの理解が深まること間違いなし!

※インタビューは2026年ナントでのラ・フォル・ジュルネにて行われたものです。

セバスティアン・ブヴェイロンさん インタビュー

今回、アンサンブル・マニェティスにとって記念すべき初来日となります。まずは日本の聴衆に自己紹介をお願いします。

私自身はモダン・ヴァイオリンをパリで学び、ケルンでバロック・ヴァイオリンの奏法も習得しました。文学、哲学、歴史が好きで、音楽史に関しても興味が尽きません。色々な時代や様式の音楽を奏でたいとの思いから、「アンサンブル・マニェティス」を2013年に立ち上げました。普段は私の解説を交え、お客様に曲の背景などを理解しながら演奏を楽しんでいただく形をとっています。

メンバーたちはモダン・オーケストラや古楽器アンサンブルでも活動しているとのことですが、今回の3公演での使用楽器は?

モダン楽器にガット弦を張って演奏する予定です。

公演「カルダーラ、ポー川からドナウ川へ」では、バロック時代の知られざる作曲家に光を当てますね。

カルダーラは、同じくヴェネツィア出身のヴィヴァルディと比べると知名度が低いものの、素晴らしい作曲家です。チェロ奏者でもあったことから、弦楽書法に工夫が凝らされていて、今回ご紹介するオペラ《ニトクリ》のアリア〈運命と希望〉では、チェロとソプラノが“二重唱”のように絡み合います。オラトリオ《キリストの足元のマグダラのマリア》(抜粋演奏)では、地上の快楽と天上の愛の間で葛藤するマグダラのマリアの内面が音楽で巧みに描かれます。

公演「ヴィヴァルディの調べ」では、ヴァイオリン協奏曲集《四季》で有名な作曲家のアリアを取り上げますね。

ヴィヴァルディは声楽の分野でも多作家でした。彼の歌曲は書法が器楽的で、歌うのが難しい。その難しさゆえの歌い手の苦闘も、ある種のドラマを音楽に付与しているように思います。

公演「聖なる流れに」も声楽公演ですが、時代はロマン派へと移ります。

このライン川をテーマとする公演では、私の編曲による室内楽版で、シューマンの連作歌曲集《詩人の恋》、ワーグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》の前奏曲、《ヴェーゼンドンク歌曲集》(抜粋)をお聞きいただきます。公演のサブ・テーマは「愛」です。

最後に、グループ名の由来をお聞かせいただけますか?

「マニェティスMagnétis」は、古代ギリシアの哲学者プラトンの対話篇『イオン』にちなんでいます。この対話篇で、ソクラテスは吟誦詩人イオンに「詩や悲劇などを吟じ・演じる者は、神がかり的な力に突き動かされる。エウリピデスの“マグネシアの石”(磁石)のような力に!」と述べます。私たちも舞台上で、磁力(仏語:magnétisme)のような神がかった情熱に突き動かされたいと願っています。日本の聴衆の皆さまにも、私たちの情熱が伝わりますように!

ジャン=バティスト・ドゥルセさん インタビュー

今回、「ヴィスワ川(ワルシャワ)とセーヌ川(パリ)」と題したソロ・リサイタルでショパンとフォーレを組み合わせた理由をお聞かせください。

ショパンの即興曲4曲と、フォーレのヴァルス=カプリス4曲を弾きます。フレンチ・ピアノ音楽史上、フォーレはショパンの後継者だと思います。ヴァルス=カプリスは華やかに聴こえますが難曲です。そのヴィルトゥオジックな書法と、背景に広がるパリのサロン文化が、ショパンの即興曲へ直(じか)に通じています。

“即興の名手”ドゥルセさんからみて、ショパンの即興曲は即興的に書かれているのでしょうか?

ソナタを例外とすれば、ショパンのピアノ音楽、とりわけ即興曲と夜想曲には極めて自由奔放な側面があります。もちろん背後に“構成”は存在しますが、弾いていると、ショパンが音楽の自発的な流れに身を任せているように感じることが多々あります。

2024年のLFJで小津安二郎監督の映画に寄せる即興を行なったドゥルセさん。今回も即興で映画の世界へいざなってくださいます。

今回も私の映画愛が詰まった公演をお届けしたいと思いました。8本の映画に基づく即興公演ですが、映画のサウンドトラックを即興に盛り込むアプローチではなく、私自身が映画から受けた印象を音で表現します。
新譜『A FILM BY』(2026)にも同様の即興を収めたのですが、日本の聴衆の反応を感じながら紡いでいく一期一会の即興をお楽しみいただけたら嬉しいです。

映画評も執筆なさるドゥルセさんが最近ご覧になった映画の中で、お薦めは?

少し古いですが、黒沢清監督の『クリーピー 偽りの隣人』(2016)とペドロ・アルモドバル監督の『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』(2024)は名作だと思います!

室内楽公演のテーマは「スペインの川」ですね。

トゥリーナとグラナドスのピアノ五重奏曲を弾きます。いずれも演奏される機会が少ない名曲です。共演のエルミール弦楽四重奏団とはパリ国立音楽院時代からの長い付き合いで、最近ではショパンのピアノ協奏曲ホ短調の室内楽版を、フランスのノアンで一緒に演奏しました。日本での初共演が叶って嬉しいです。

最後に、ドゥルセさんにとって「川」とは?

川は様々な文化や世界を繋ぐ存在として、私を大いにインスパイアしてくれます。いつも私は演奏を通して、聴衆と一緒に音楽の「旅」に出かけたいと願っています。今回は川というテーマと共に想像の世界へ旅立ち、フランスや日本やスペインやポーランドを巡ることができます!

プソフォス弦楽四重奏団 インタビュー

今回のLFJナントでは最終夜のクロージング・コンサートにご出演されます。全国放送(ARTE)で生中継されるとのこと、大役ですね!

光栄です。ウィーンの女性作曲家マリア・バッハのピアノ五重奏曲「ヴォルガ川」のアダージョ楽章を演奏します。有名なロシア民謡「ヴォルガの舟歌」に基づく変奏曲で、同時代のドビュッシーやラヴェル、新ウィーン楽派からの影響もうかがえる興味深い音楽です。

共演はピアニストの広瀬悦子さんです。

昨年のナントではフォーレのピアノ五重奏曲でご一緒しました。広瀬さんとは、これまで何度も共演を重ねているので、舞台上で自然に心が通じ合います。5月のLFJ東京では、同じメンバーでマリア・バッハのピアノ五重奏曲の“全楽章”を演奏できるので、楽しみにしています。

その東京公演では、ニコライ・アファナシエフの弦楽四重奏曲「ヴォルガ川」も演奏なさいます。レアな2曲が並ぶプログラムですね。

アファナシエフは19世紀半ばに活躍したロシアのヴァイオリニスト/作曲家で、20世紀を生きたマリア・バッハよりも前の世代です。この弦楽四重奏曲には民謡「ヴォルガの舟歌」の旋律は出てきませんが、民謡風の美しい旋律が次々に現れます。

東京ではオール・スメタナ・プログラムも披露なさいます。

弦楽四重奏版の《モルダウ》と、弦楽四重奏曲「わが生涯より」を組み合わせました。「わが生涯より」はスメタナが聴力を失った後に書いた自叙的な大曲で、第2楽章では、踊るのが得意だったスメタナがチェコの舞曲「ポルカ」の思い出を音で綴っています。愛をめぐる第3楽章は胸に響きます。そして終楽章の終盤で、ヴァイオリンの高音がスメタナの失聴を暗示します。

プソフォス弦楽四重奏団は来年、結成30年を迎えます。何かご予定は?

ベートーヴェンの没後200年という重要な記念イヤーと重なるので、来年はベートーヴェンの作品の演奏に力を入れる予定です。2人の現代作曲家に、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲op.18に基づく新作も委嘱しています。

プソフォス弦楽四重奏団は日本と縁が深いそうですね。

初めて入賞したコンクールが1999年の大阪国際室内楽コンクール(3位)でした。創設時の第1ヴァイオリン奏者が日本人で、彼女の家族と一緒に日本を周りました。以来、日本を訪れるたびに、もっと日本を知りたいと心躍らせています!今回のLFJ東京では、若いソリストの方々との共演でショーソンの《コンセール》とシューマンのピアノ五重奏曲も演奏します。日本での素晴らしい思い出がまた増えそうで、わくわくしています!

広瀬悦子さん インタビュー

LFJ東京では3種のプログラムを披露なさいます。なかでもマリア・バッハのピアノ五重奏曲が珍しく、目を引きます。

1978年に亡くなった女性作曲家で、ピアノ五重奏曲「ヴォルガ川」は1927年頃の作品です。アダージョ楽章はロシア民謡「ヴォルガの舟歌」による美しい変奏曲で、20世紀とはいえ前衛的な書法ではなく、時おり教会旋法が聴こえてきます。

どのような作曲家だったのですか?

ウィーンの上流家庭に生まれ、母親はマーラーやブラームスの指揮で歌った有名な歌手でした。自宅のサロンには、マーラー夫妻、クリムト、ココシュカらが訪れていたそうです。マリアはピアニストでもあり、じっさい、ピアノ五重奏曲「ヴォルガ川」のピアノ・パートは弾きごたえも聴きごたえもあります。ちなみに彼女は腕利きの画家でもありました。

どこで楽譜を入手なさったのですか?

楽譜を手にするまでがとにかく大変でした。絶版になっており、パブリック・ドメインでもありません。ウィーンの図書館にあることが判明して問い合わせたところ、まずは作曲者の相続人の許可が必要だと言われました。許可をいただき、ようやく楽譜と対面できました!

この曲で共演するプソフォス弦楽四重奏団との出会いは?

5年ほど前にエカテリンブルクでブラームスのピアノ五重奏曲を共演したのが始まりです。音楽的にも人間的にも惹かれ合い、何度も共演しています。

LFJ東京で行うピアノとサンド・アートのコラボレーションは、2021年から続けられているそうですね。

これまで、サンド・アートの伊藤花りんさんと一緒に「星の王子さま」と「シェヘラザード」を日本各地で展開してきました。小説『星の王子さま』には独特の哲学的な世界があり、色々な解釈がありうるストーリーですので、私たちなりの視点で物語を紡ぎ、クラシック音楽に馴染みのない方にも、ピアノ音楽がお好きな方にも楽しんでいただいています。

LFJ東京での《展覧会の絵》によるサンド・アートとのコラボレーションは、新しい試みということですね。

新しい試みとはいえ、《シェヘラザード》の作曲者リムスキー=コルサコフと《展覧会の絵》の作曲者ムソルグスキーは、若い頃に同居していたほど堅い友情で結ばれていました。その意味では、これまでの私たちの試みの音楽的な延長線上にあります。伊藤さんの幻想的で美しい砂のアートを、LFJのお客様にも是非ご覧いただきたいです。

LFJナントでの広瀬さんのリサイタルは立ち見客が出る盛況ぶりで、起伏に富んだダイナミックな演奏が好評でした。LFJ東京でも同じ曲目をお弾きになりますね。

モシュコフスキの編曲による《ホフマンの舟歌》やリストの《ヴェネツィアとナポリ》などが並ぶ、「ヴェネツィアの舟歌」にまつわる公演で、弾いていてとても気持ちの良いプログラムです。ゴンドラで舟遊びをしているような気分でお聴きいただけることと思います!

フランソワ・ラザレヴィチさん インタビュー

公演「美しく青きドナウの川岸で」では、中東欧の様々な民族の笛を吹きこなすラザレヴィチさん。もともと民俗音楽を通じて笛の世界へ足を踏み入れたのですか?

クラシック音楽からのスタートで、はじめに音楽院でリコーダーを学びました。その後、20歳の時にアイルランドの笛と出会いました。のちにカブレットという小型のフレンチ・バグパイプも吹きはじめたのですが、これは母の出身地オーヴェルニュ(フランス中部)の伝統楽器です。ちなみに公演「美しく青きドナウの川岸で」で東欧に光を当てているのは、セルビア出身の父の影響です。

ラザレヴィチさんは笛の収集家だそうですが、何本お持ちですか?

数えきれません(笑)ルネサンス/バロック音楽用のフルートやリコーダーを大量に持っており、オトテール型フルートもあります。アイルランドやスコットランドの笛も沢山!同じ笛でも共演者が選ぶ調性に合わせて大きさ(調性)が違うものが必要になることもあり、買い揃えています。ミュゼットやコルヌミューズ(フレンチ・バグパイプ)も集めています。

アンサンブル「レ・ミュジシャン・ド・サン=ジュリアン」設立のきっかけは?

約20年前にコルヌミューズのコンクールで優勝し、副賞で「一週間スタジオで自由に録音できる」権利を得ました。このとき『フランスにおけるコルヌミューズの100年のあゆみ』と題した録音シリーズを、仲間を集めて制作しました。それがレ・ミュジシャン・ド・サン=ジュリアンのはじまりです。数人の固定メンバーはいますが、私が奏でたい音楽の幅が広いので、毎回、曲目やプロジェクトによって参加ミュージシャンが柔軟に入れ変わります。

グループ名の由来は?

中世にパリで結成された「聖ジュリアン楽士組合」にちなんでいます。このギルド(同業組合)に属したメネトリエと呼ばれる人々は、演奏家と舞踊家を兼ねていました。彼らにとって、演奏と舞踊が不可分なもの・作用し合うものであったことは、示唆に富んでいると思います。

公演「テレマンとポーランド」では沢山の舞曲が演奏されますね。

テレマンはバッハと同時代を生きた大作曲家ですが、若い頃に現ポーランド領の宮廷に仕えました。彼は、この間に出会ったポーランドやモラヴィア(チェコ)の民俗音楽の「野趣に富んだ美」を称え、影響を受けました。公演ではテレマンの色彩豊かな“ポーランド風”の曲と、民俗舞曲や伝統歌を演奏します。

公演「ヴィヴァルディ:四季の息吹」の聞きどころは?

こちらは一風変わったバロック・プログラムです。というのも、〈春〉をミュゼット独奏版(シェドヴィル編曲)、〈冬〉をフラウト・トラヴェルソ独奏版でお届けし、リコーダー協奏曲「海の嵐」もお聴きいただきます。映画のように、皆さんの視覚的なイマジネーションをかき立てる多彩な内容です!

アリエル・ベックさん インタビュー

ベックさんは“シューマン好き”を公言されています。きっかけは何だったのですか?

両親は演奏家ではないのですが大の音楽好きで、幼い頃から、いつも家でクラシックのレコードやCDが流れていました。なかでも私が魅了されたのがクララ・ハスキルやクラウディオ・アラウによるシューマンのピアノ曲の演奏録音で、自分から進んで繰り返し聴いていました。4歳でピアノを始めてから両親がシューマンの楽譜を沢山買ってくれて、夢中になって譜読みしました。シューマンの音楽に「péché mignon(病みつき)」になってしまったんです!

初めて本格的に弾いたシューマンの曲は?

《幻想小曲集》の〈夕べに〉です。

現在のベックさんにとって、シューマンの音楽はどのような存在ですか?

今お話しした通り、自分自身の幼い頃の記憶と分かちがたく結びついているので、ノスタルジーを体現する音楽です。じっさい、彼の音楽に特有の夢幻性は幼心と切り離せないのではないでしょうか。彼のピアノ曲は高度なテクニックを要する難曲であっても、不思議と子供の心にもスッと入ってきます。

LFJナントで名演を披露し、LFJ東京でも演奏なさるシューマンのピアノ協奏曲の“難所”は?

意外に思われるかもしれませんが、第2楽章です。リズムが複雑な第3楽章と比べればテクニックの面では易しいのでしょうが、音楽的な深みを追求するという点で、第2楽章、特に出だしが“難所”だと思います。フレーズを“噛まない”よう滑らかに音楽を前進させていくために絶妙なテンポを見出す必要がありますし、オーケストラとの積極的な対話も求められます。だからこそ、リハーサルの段階での指揮者・オーケストラとの密なコミュニケーションが大きな鍵を握る楽章だと思います。
LFJ東京でプソフォス弦楽四重奏団と共演するシューマンのピアノ五重奏曲にも、似たようなことが言えるかもしれませんね。

ベックさんは今も学生なのですか?

はい、パリ国立音楽院でクレール・デゼール先生に師事しています。

これから挑戦したいことや掲げている目標はありますか?

近いうちにシューマンの《交響的練習曲》《幻想曲》を仕上げたいです。そして、いつかシューマンの全曲録音に取り組みたいです。

昨年、LFJ東京に初出演され日本デビューを飾りました。

日本の聴衆の皆さんのあたたかさに感動しました。昨年は東京国際フォーラムにこもって個人練習とリハーサルに明け暮れていたので、5月のLFJ東京期間中は、少し東京の街を歩いたり郊外を観光したりしたいです。まもなく日本の皆さんに再会できるのが待ち遠しいです!

ガスパール・ドゥエンヌさん インタビュー

ドゥエンヌさんのプロフィールには「16歳で出会ったショパンの音楽をきっかけに演奏家を志す」と書かれています。これまでの歩みをお話しいただけますか?

幼少期からテニスに夢中だったのですが、16歳の時にショパンのバラード第4番に感銘を受け、ピアニストになりたいと思いました。もちろん、それ以前からピアノは弾いていましたし、音楽は母(アンヌ・ケフェレック)の影響でずっと身近な存在でした。パリでブルーノ・リグット先生、レナ・シェレシェフスカ先生、ザルツブルクでジャック・ルヴィエ先生にご指導いただきました。

お母様とはLFJ東京で、モーツァルトの2台のピアノのための協奏曲を演奏し、デュオ・リサイタルも行います。

母とは何年も共演を重ねています。モーツァルトの協奏曲は幾度も一緒に弾いたことがあり、音楽祭のテーマ「大河」に絡めて申し上げるなら、音楽を通じて寄り添ってきた私たち親子の人生という「河」を体現する曲です。デュオ・リサイタルでは、モーツァルトのほかにシューベルトとバッハの名曲も弾きます。

親子での練習となると、関係が近すぎて口論になったりしませんか……?

昔の私は今より短気で、デュオの練習では母に対して強気に出ることもあったのですが、母は穏やかなタイプで、言い合いに発展することはありませんでした。振り返ってみると、あの頃の母の辛抱強さに驚かされます(笑)

親子で演奏するメリットのほうが多いということでしょうか(笑)

本番の舞台上でメリットが多いです。以心伝心と言いますか……お互いに何をしたいのか即座に分かります。

ドゥンヌさんは母校パリ国立音楽院で声楽伴奏の修士号も取得なさっています。

声楽曲や、歌唱の際の息遣いに通ずることは、様々な作曲家の器楽を深く理解する上でも欠かせません。声楽伴奏の第一人者アンヌ・ルボゼック先生のもとで学べた私は幸運でした。ただし私は、歌うのは得意ではありません(笑)

御祖父のアンリ・ケフェレック氏も叔父様のヤン・ケフェレック氏も有名作家という文学一家にお生まれになったドゥエンヌさん。そのような家庭環境も、歌曲への興味と無縁ではないのでは?

確かに幼少期から自然に詩や文学がそばにありましたし、個人的に読書が大好きです。そのお陰かどうか分かりませんが、歌詞の理解にはあまり苦労しません。

LFJ東京ではメゾ・ソプラノの鳥谷尚子さんとも共演なさいますね。

鳥谷さんとは初めて共演します。張り切って連絡を取り合っているところです。これまで私は2度、日本に行ったことがあり、日本の方々の親切さに感動しました。LFJ東京には初出演となります。聴衆の皆さんにお目にかかれるのが本当に楽しみです。

ソフィア・リュウさん インタビュー

まずは昨秋のNHK交響楽団へのデビュー、おめでとうございます!

N響さんとの初共演は、これまでの私の人生で起きた最も素晴らしい出来事の一つです。公演の翌朝に目が覚めた時、「本当に夢が叶ったんだ!」と改めて興奮しました。神戸に住んでいた5歳の自分がいつもテレビで観ていたオーケストラと共演できたなんて、信じられません。

タイムマシンがあったら、5歳のソフィアさんに「夢が叶うよ」と伝えたいですね。

信じてくれないかもしれませんね(笑)上海で生まれ、2歳から7歳まで日本で育った私は、当時の日本のクラシック音楽シーンから多大な影響を受け、沢山の日本のピアニストたちに憧れていました。

4歳でピアノを始め、5歳の時に神戸のコンクールで金賞に輝いたとのことですが、なぜそんなに速くピアノの腕が上がったのですか?

幸運にも素晴らしい先生に出会えたからでしょうか……。私は、お稽古中に飛び跳ねたりピアノの下に隠れたりする問題児でした。そんな私に、最初の先生が根気よく優しくピアノのいろはを叩き込んでくださったんです。

7歳でカナダへ移られたのは音楽のためですか?

私がダン・タイ・ソン先生に師事できるよう、一家でモントリオールへ引っ越しました。現在も同地で暮らし、先生のもとで学んでいます。

5月にはLFJ東京にデビューなさいます。

本名徹次マエストロの指揮で、新日本フィルハーモニー交響楽団とチャイコフスキーのピアノ協奏曲を演奏します。私の大好きな曲の一つで、共演が待ち遠しいです!

LFJ東京では、ソロ・リサイタルもお弾きになります。

ショパンとリストの作品を組み合わせました。2人は、これまで、私の音楽性の形成や私の音楽人生に大きな影響を及ぼしてきた作曲家です。プログラムの山場であるリストの「ハンガリー狂詩曲」第12番は、美しく、魅力的で、弾いていて愉悦を覚える曲です。

LFJ東京では、近代フランスの作曲家ショーソンの室内楽曲も演奏なさいますね。

ピアノ・ヴァイオリン・弦楽四重奏のための「コンセール」を弾きます。一筋縄では行かない大曲です。去る11月にフランスでこの曲を初めて演奏し、すっかり恋に落ちました。有名な曲でありながら、レパートリーに含めている人は少ない印象で、共演者を見つけるのが難しい曲だと思います。是非また弾きたいと望んでいたので、LFJ東京での共演パートナーが決まり嬉しいです。

最後に、ピアニストを志す若い聴衆に何かアドヴァイスの言葉をいただけますか?

アドヴァイスなんておこがましいですが……自分の経験も踏まえて、夢を持ち続けてくださいとお伝えしたいです。ピアノであれ、他の楽器であれ——たとえ音楽の分野でなくても——、情熱を抱いた何かに一心に愛を注いでください!

アブデル・ラーマン・エル=バシャさん インタビュー

LFJ東京では、ショパンの協奏曲第2番ヘ短調を演奏なさいます。彼の初期の作品ですね。

ショパンがワルシャワを発つ20歳頃までに書いた作品のほとんどは、エネルギーと陽光に満ちています。そこでは斬新なピアノ書法を編み出しつつある若き天才ショパンの意欲や情熱も感じられます。もう一つ、協奏曲ヘ短調を語る上で避けて通れないのは、この曲に彼が託した切ない恋情です。

なぜ彼は、若くして斬新なピアノ書法を編み出せたのですか?

年上のピアノ・ヴィルトゥーゾたちから受けた影響のほか、ヴァイオリン奏者パガニーニから得たインスピレーションも無視できません。ショパンはそれらを、自身の特異な感受性というフィルターに通し、唯一無二のピアノ書法を生み出したのです。

LFJ東京でのリサイタルでは、中期の《24の前奏曲》をお弾きになります。

ショパンが相反する感情を抱え、葛藤した時期の作品です。しかもマヨルカ島で《24の前奏曲》を書いていた彼は、重病で死と隣り合わせにありました。この曲集には、天上的で晴れやかな面と、より陰のある混沌とした面があります。各曲は、まるで春と秋が交替するように並んでいます。第1曲ハ長調は光も同然の音楽で、第15曲「雨だれ」に至っては、一曲の中で変ニ長調の光と嬰ハ短調の闇が対置されています。

リサイタルの冒頭に置かれた《舟歌》は晩年の作品です。

《舟歌》のショパンは、この世から離れて天の高みにいるかのようです。《舟歌》の夢幻の世界で表現されているのは、まだ見ぬヴェネツィアへの憧憬です。そこには彼特有の「歌」が詰まっています。彼はイタリア・オペラを愛していました。とはいえ彼の「歌」はオペラを超越しています。アリアは人間の喉が奏でるものですから限界があります。しかしショパンは鍵盤上で、その限界から解放されています。彼の音楽には「華麗なパッセージ」は存在しません。そこにあるのは、異なる速度で歌われる無数の「歌」だけです。

なぜエル=バシャさんは、かくもショパンの音楽に惹かれるのでしょう?

明確な理由は分かりません。ただ私は、若い頃に母国を離れ、長年ショパンのようにホームシックを抱えて生きてきました。私がショパンの音楽と初めて出会ったのは11歳の時です。彼のマズルカを聴いた瞬間、天にいるような心地になりました。その心地は時と共に確かなものとなり、現在に至っています。

LFJ東京では室内楽も演奏なさいます。

エルミール弦楽四重奏団とドヴォルザークの名曲を共演します。彼らとは2024年のLFJ東京でシューマンのピアノ五重奏曲を演奏しました。私にとって室内楽は、共演者や聴衆との親密なコミュニケーションの場であり、力任せに弾くスタイルは好きではありません。その点で、彼らのまろやかなサウンドと睦まじいアンサンブルに好感を抱いています。日本の聴衆の皆さまと親密な室内楽のひとときを過ごせますこと、心待ちにしております。

福間洸太朗さん インタビュー

ナントのリサイタルでは、ビゼー、シュルツ=エヴラー、スメタナの作品を奏で、刻々と変化する「水」をインスピレーション豊かに表現なさっていました。LFJ東京での再演が待ち遠しいです!LFJ2026のテーマ「大河」は、これまで水の音楽を探求なさってきた福間さんにぴったりですね。

子供の頃から音楽で水を表現するのが好きでした。それに先に気付いたのは周囲の方々です。私がリストの《森のささやき》を弾いた時、直(じか)に水にちなんだ曲ではないにも関わらず、「水のきらめきを感じた」「洸太朗の“洸”の字…水と光のイメージが浮かんだ」等の感想をいただきました。そう言われてみれば以前から、発表会で《水の反映》を弾いたり、コンクールで《エステ荘の噴水》を弾いたり、おのずと大事な局面で水の曲を選んでいました。

ピアノで水を表現する時、心にかけていることはありますか?

水は固体ではなく流動的ですから、音楽の流れが途切れないよう、また、音楽が曲線を描くよう心がけています。たとえばオクターヴの連続は攻撃的になりがちですが、そのようなパッセージでも流動性を意識しています。
川の水温や色合いは、状況や時刻によっても変わります。今回のプログラムに含めた《モルダウ》でも、最初のテーマが終盤に回帰する際には、別の水温や川幅のモルダウ川が表現されているはずです。

《モルダウ》は、福間さんご自身による編曲です。リストの時代には管弦楽曲の普及を目的としたピアノ編曲が盛んでしたが、福間さんが編曲をなさる際に定めていらっしゃる目的や方針はありますか?

編曲家リストの大きな功績は“普及”にとどまりません。彼は原曲をリスペクトしつつ、割と自分のアイデアも盛り込んでいます。あの時代に、リストほど原曲にピアニスティックに音を足していった独創的な編曲者は他にあまりいません。その点で彼は先駆者でした。私自身も原曲に最大限に敬意を払い、自分独自のアイデアを少しずつ盛り込む編曲を目指しています。

原曲という制約の中で、自由を追求していくということですね。

原曲をリスペクトしながら、遊び心を加えたり、より華やかにしたりします。ただしピアノは音が減衰していく楽器ですから、それを間延びさせないために音を補うことはよくあります。

LFJ東京では、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」も演奏なさいますね。

ピアノが華麗に分散和音を奏でる「皇帝」の冒頭は、私のなかでは「大河」のイメージと合致します。「皇帝」の主調である変ホ長調は、ベートーヴェンの音楽において殊に特別な意味を持っていると思います。交響曲「英雄」も変ホ長調ですから、やはり彼にとって勇姿や威厳を体現する調性なのでしょう。これまで東京21世紀管弦楽団とは幾度かご一緒したことがあり、指揮の高橋星花さんとは初共演となります。共に「皇帝」を演奏できるのが楽しみです!

リオ・クオクマンさん インタビュー

クオクマンさんはLFJ東京2016で日本デビューを飾りました。今年は日本デビューから10年の節目に当たりますね。おめでとうございます!

今年は私にとって記念イヤーなのですね、気がつきませんでした。とても嬉しいです、教えてくれて有難うございます!(笑)

LFJ2016のテーマは「ナチュール(自然)」でした。クオクマンさんは、クネヒトの「自然の音楽的描写」やフィールドのピアノ協奏曲「嵐の中の火事」などを指揮し、小林愛実さんとモーツァルトのピアノ協奏曲で共演なさいました。

そのとき共演したシンフォニア・ヴァルソヴィアとは、以来、何度も共演を重ね、彼らがホスト・オーケストラを務めるLFJワルシャワにもお招きいただきました。
愛実さんのことは、彼女がカーティス音楽院の学生だった頃から知っています。次回のLFJ東京2026では、私の大好きなグリーグのピアノ協奏曲で愛実さんとご一緒できるので、今から再会と共演が待ち遠しいです。愛実さんと東京フィルハーモニー交響楽団と共に、聴衆の皆さまを北欧の大自然と舞曲の世界へお連れします。 LFJ2016 日本デビューで小林愛実と共演/2016年5月5日【公演番号312】©teamMiura

“本家”のナント、そして東京、ワルシャワと、各地のLFJで“常連アーティスト”の一人として活躍なさっているクオクマンさん。この音楽祭に惹かれ、出演を重ねている理由をお聞かせいただけますか?

本当にたくさんの魅力が詰まった音楽祭です。素晴らしい共演者たち、会期中に育まれる友情、ワクワクさせてくれる多彩なプログラム、あたたかい聴衆。その全てに惹かれています。私にとってLFJは、演奏者たちが丸一日、音楽作りに没頭することができる場。そして誰もが音楽を体験するために集うことができる、唯一無二のスペシャルな音楽祭です。毎回、出演を心から楽しみにしています。

今年のLFJ東京では、最終日にホールAで行われるクロージング・コンサートに出演なさいます。

とても光栄です。東京フィルハーモニー交響楽団との共演で、スメタナの交響詩「ヴルタヴァ(モルダウ)」とドビュッシーの交響詩「海」の終楽章「風と海の対話」を演奏します。なるほど、大河や川は、やがて海や大洋へと注ぎ、あらゆる人びとを繋ぎます。今年の音楽祭の美しいテーマ「大河」も、音楽を通して私たちの心を繋いでくれることでしょう。

10年の時を経て、クオクマンさんと日本のオーケストラ界の距離は圧倒的に縮まったのではないですか?

ここ10年のあいだ、コロナ禍を除けばほぼ毎年、日本を訪れてきました。多くの日本のオーケストラを指揮する機会に恵まれ、嬉しく思います。日本の文化は歴史に深く根ざしていますが、いっぽうで、日本の方々は新しいアイデアにも常にオープンなので、私自身、その両面を楽しんでいます。日本の聴衆の熱心な姿勢が、演奏者たちにとって大きな支えとなっていることもうかがえます。
私にとって、関西フィルハーモニー管弦楽団のアーティスティック・パートナーに就任できたことは、とても名誉なことです。関西フィルとはコロナ禍の前に初共演した時から、音楽的な相性の良さを心に強く感じていました。今後、楽団との芸術的な絆を深化させていけることに大きな喜びを感じているところです。

最後に、指揮者として掲げている短・中・長期的な目標があれば教えてください。

現在、複数のオーケストラと共に、ツアーや新作の初演なども含めた様々な企画やプログラムに同時進行で取り組んでいます。目の前にある一つ一つのプロジェクトの準備に真摯に力を注ぎ、全てをできる限り最高の結果に導くことが、目下の私の目標です!

*インタビュー:2026年3月