ナントレポート

世界の河川にちなんだ多彩な楽曲が
ロワール川岸で“合流”する壮大なプログラム

フランス北西部の古都ナントで、第32回ラ・フォル・ジュルネ(LFJ)が催された。世界最大級のクラシック音楽祭として知られ、音楽による街おこしの成功例としても名高いLFJ。今年も5日間、132,000枚のチケットを手にした観客が、2,380名の演奏者による公演を堪能したといい、じっさい特設舞台「キオスク」を中心に、会場は沢山の笑顔であふれ返っていた。

一人一人の来場者が自分なりの“音楽の冒険”を楽しめるのが、LFJの仕組み。先入観とは無縁のキッズ、クラシック公演のビギナー、コアな愛好者……万人を歓迎する充実のプログラムを、ヴェテランと新進の若手が入り混じる出演者陣が奏でる。この、ともすれば雑多になる“祭り”に一貫性を与え、私たちのイマジネーションを掻き立ててくれるのがLFJ流のテーマ設定だ。

今年のテーマは、フランス最長のロワール川を擁するナントにぴったりの「Les fleuves(大河)」。最終夜のクロージング・コンサートが、この“お題”を壮大に表現していた。アメリカの黒人霊歌、知られざるM.バッハのピアノ五重奏曲「ヴォルガ」、シューベルトの《水の上で歌う》、C.シューマンの《ローレライ》、R.シューマンのピアノ協奏曲、ワーグナーの《森のささやき》、スメタナの《モルダウ》が流れるたびに、聴衆は熱狂。ロワール川岸の会場で、ミシシッピ、ヴォルガ、ライン、ドナウ、モルダウの川が“合流”した。

期間中、キオスクで響くシューベルトの《ます》やブルガリアの合唱を耳にしつつ、様々なホールで川へといざなわれた。古楽アンサンブル「レ・ミュジシャン・ド・サン=ジュリアン」の公演では、フラウト・トラヴェルソやチャカンなど多種の笛を駆使した名技に驚きつつ、ドナウ川へ!シューマンとワーグナーの愛の音楽を届ける「アンサンブル・マニェティス」の公演では、ライン川へ!エル=バシャのリサイタルでは《舟歌》を聴きながら、晩年のショパンがヴェネツィアの運河に抱いた憧れに思いをはせた。ファミリー向けの公演では人魚やセイレーンにまつわる歌曲を子供たちと楽しみ、講演会「美しく青きドナウ」ではシュトラウス一家への知識を深めた。

亀井聖矢さんはサン=サーンスのピアノ協奏曲第5番「エジプト風」(ナイル川)でLFJナントに鮮烈なデビューを飾った。常連の福間洸太朗さんは、《モルダウ》(ご自身の編曲)を軸とするリサイタルで、刻々と変化する水を見事に表現。広瀬悦子さんは、クロージング・コンサートでの好演がARTE(独仏テレビ局)で生中継されるなど大活躍だった。

滞在中、ナント出身の作家ジュール・ヴェルヌの博物館も訪ねた。ロワール川の中洲で育ち、船乗りたちを通じて遠方の世界へ憧れた幼少期が、ヴェルヌの奔放な想像力の源泉となったらしい。

5月に催されるLFJ東京のテーマも「大河」。“本家”ナントの内容を受けつつも、銀河で幕開けし、世界各地の河川を巡り、海へと至る独自なプログラムで、日本の聴衆の皆様を“音楽の冒険”へとお連れする。